黒川想矢「演技を通して人の感情を考えたり、自分の感情と向き合ったりすることが、自分の中で少し救いになる」WEBインタビュー
黒川想矢さんが主演キム・ジアンさんがヒロインを務める映画『3ミリの恋』。唐津と釜山という二つの港町を舞台に、言葉や文化の違いだけでなく、人との出会いや土地に刻まれた歴史にも触れながら、黒川さん演じるタツヒコの心が少しずつほどけていくような作品でした。作品を重ねる中で、ご自身としても一歩ずつ進んでいる手応えはありますか?
手応えとまでは、言い切れないところがあります。まだ「やりたいこと」や「やりたい役」を聞かれても、はっきりとは分からないんです。それはきっと、今目の前にあることをやっていくうちに見つかってくるものなのかなと思っています。今は、いろいろな作品に出させていただくほど「演技ってどんなものだったっけ?」と分からなくなるところもあって。夏頃にとある作品の撮影が終わり、「ここからは学校に戻らなきゃ」と学生の自分に戻った途端、まったく違う世界にいる感覚になりました。逆に、普段の自分を演じているような気持ちになってしまったんです。「自分に戻るぞ」と言い聞かせたりもしていて。ある日、夢の中でこの間まで演じていた役として生きていて、関係ない人にすごく怒られていたんです。それが本当に怖くて、朝起きても、自分なのか役なのか分からなくなるほどで。すぐにその作品の監督に電話して、「今の僕は自分なのか、役なのか分からない。ごちゃごちゃになってしまった」と話を聞いてもらいました。“自分じゃない”という感覚とも少し違っていて、“自分なんだけど、自分ではない自分でもある”というような感覚だったんです。もちろん今は大丈夫ですが(笑)、その時はすごくびっくりしました。演技ってすごく夢中になるもので、毎回、撮影中に「こういうことかもしれない」と思う瞬間があるのですが、次の現場ではまた違うんです。だから楽しいし、でも分からなくもなる、演技にはそんな魅力があるのだと思います。


『3ミリの恋』の現場では、そうした感覚はありましたか?
意外となかったです(笑)。撮影中は韓国語を勉強したり、ユンスル役のキム・ジアンさんや、かっちゃん役の荒木飛羽くん、ジュリ役の早瀬 憩さんと遊びに行ったりして、本当にただ一緒に遊んで仲を深めて、そのままの関係性で演じたような感覚がありました。とても楽しかったです。僕はキム・ジアンさんに日本語を教えたり、反対に韓国語を教えてもらったり、韓国のスナックをもらったり。それぞれがみんなでコミュニケーションを取ろうとしていました。撮影中も、4人の関係性の中で、お互いの気持ちに重点を置いていくような感覚があって。どうしても「こういう演技をしたい」という気持ちが出てきてしまうこともありますが、そういうものを忘れて、相手からくるものをちゃんと感じたいと思っていました。でも、この現場では、そういうことを意識しなくても、自然と4人の関係性でいられた。それがとても嬉しかったです。完成した作品を観ても、交流を深めた時間がそのまま映っているように感じて、そこがいいなと思ったんです。
作品の舞台となった唐津と釜山、共通するものはありましたか?
唐津と釜山では、それぞれ同じくらいの時間を過ごしました。それぞれに良さがありつつ、似ているところもあって面白かったです。どちらも港町で、海との距離も近いですし、街の雰囲気や人の温かさはすごく似ている気がしました。
韓国と日本は隣国でありながら、言語も文化も違いますよね。2つの都市を行き来する中で、改めて日本らしさや日本の良さに気付くことはありましたか?
いろいろありますが、感情をすべて表に出さないことでしょうか。もちろん、ストレートに感情を伝えていくこともすごく素晴らしいと思います。日本には、言葉にしなくても伝わる気持ちや、言葉の裏にあるニュアンスを大切にするようなところがある気がします。演技にも、それはあると思っていて。人は、嘘ではないけれど、少し自分とは違う自分のようなものを持っているというか。実際にはそんなものはないのかもしれないけれど、隠して、隠して、その中から何かが出てくる。その感じは、日本人らしさでもあるのかなと思いました。言語が違うからこそ、言葉ではない何かをより感じたのだと思います。日本のそういうところが好きですし、大切にしたいと思いました。

海外の俳優やスタッフの方々と、密にコミュニケーションを取りながらひとつの映画を作り上げることは、役者としても大きな糧になったのではと思います。普段から、感情や自分の状態について考えることは多いですか?
「ああ、そうなのかも」と気付くことは多いかもしれないです。僕は普段から話すのが得意ではないんです。だからこそ、演技を通して人の感情を考えたり、自分の感情と向き合ったりすることが、自分の中で少し救いになるんです。自分の感情が一番分からないから。だから演技が好きなのかなと、自分では思います。
韓国の現場で、演技に対する考え方に変化はありましたか?
韓国の俳優の方々とご一緒して、すごくストレートだなと感じました。言葉が分からない分、感情からズドンと伝わるような感覚になって。僕には、そういう爆発するような感情の出し方があまりないなと思いました。僕は、演技していく中でだんだん蓄積されていって、自分の中から出て爆発するような感じなんです。段階的に自分の中で整理できないと、爆発できないというか。でも最近は、整理しない方がいいのかもしれないと思うようになりました。整理がついてしまうと、どこか過程を飛ばしてしまう気がするんです。「これがこうで、こうだから嬉しい」と自分の中で整理してしまうと、本来感じるはずだった部分が抜けてしまうような感覚になってしまいます。
韓国での経験を通して、演技における技術の捉え方も変わったんですね。
そうかもしれません。これまでは「技術」と言われると、嬉しそうに聞こえるためにはどんな声のトーンで言えばいいかとか、相手が演技しやすくなるためには自分がどう動けばいいかとか、台本の読み方とか、そういうことばかりだと思っていました。でも、嘘が本当になるように、自分の中で感情を構築していくことも技術なのかなと思うようになったんです。例えば、ある言葉を聞いて涙を流さなければいけないとして、その言葉自体には何もないかもしれない。でも、自分の中で「大切な人がその場所を好きだった」、「もうその人はいないから行けない」といった記憶や物語を作っておくと、それがトリガーになる。それ自体は本当の感情ではないかもしれないけれど、レンズを通して見た時に本当になるというか。フィルターをひとつかませても、ちゃんと感じられる。その中に、自分の大切な人への思いが少し入っていたら、画面の中では目の前にいる人への思いに見えるし、自分もそれだと信じられる。そういうことも技術なのかなと。この感覚を得られたことは、僕にとって大きかったです。

役と自分の境界についても、強く考えるようになったのですね。
役は自分じゃないけれど、自分も役そのものではない。でも、その中でどちらもが作用する何かがある。それがすごいなと思うし、今気になっていることなので、もっともっと考えていきたいと思っています。さっきの話もそうですが、その場ですぐに理解するわけではなく、後から「こういうことだったのかな」と分かることの方が多くて。演技している瞬間は、何をしていたかあまり覚えていないんです(笑)。自分が何をしていて、どういう感情だったのかも、あまり覚えていなくて。何か技術的なことを説明された時、「全然意味が分からないな」と思っていても、どこかに置いておく。そうすると、いつか「あ、こういうことだったのかな」と繋がることがあります。

最後に、少し日常のことも伺いたいです。先ほど「学校のテストがやっと終わった!」と話されていましたが、最近、ハマっていることはありますか?
水球かなぁ……。ハマっているというより、体育の選択項目を水泳にしたら、水泳ではなく水球をずっとやることになっちゃって(笑)。やってみたら結構面白かったんですよ!水球は「水中の格闘技」と言われるくらい激しいんです。プールも深いので、少し肩を押すだけで、自分も相手も沈むんです。ボールも水の中で投げると進みが全然違う。思うようにいかなくて、それが面白いんです。

俳優 黒川想矢(SOYA KUROKAWA)
Instagram:@soyakurokawa_official

『3ミリの恋』
監督・脚本:全 辰隆(チョン・ジニュン)
出演:黒川想矢、キム・ジアン、荒木飛羽、早瀬憩、ソウジ・アライ、パク・ジファン、チャン・へジン、チェ・ドクムン、MEGUMI、一ノ瀬ワタル、大谷亮平、他
公開中
©2026「3ミリの恋」製作委員会
costume
tops ¥59,400 by ORIMI、shoes ¥12,100 by VANS
staff
Photographer : TAKAO IWASAWA(The VOICE MANAGEMENT)
Stylist : KOJI OYAMADA
Edit & Text : AYAKO UENO(AKANE MAGAZINE)