川栄李奈「それぞれに守るもの、曲げられない信念、人に対する愛がある。それは時代が変わっても変わらないもの」WEBインタビュー
映画『RYUJI 竜二』では、主人公・竜二(柳楽優弥)の妻で、1980年代を生きるまり子を演じられました。川栄さんにとっては生まれる前の時代の物語ですが、脚本を読んだ時、まり子という女性や竜二との関係性をどのように受け止めましたか?
撮影の前に、水田(伸生)監督と打ち合わせをさせていただく時間がありました。その時に「まり子はこういう人です」と説明してくださったのですが、それがすごく分かりやすかったんです。時代は今とは違いますが、好きな人のために一生懸命で、ただただ家庭の幸せを守りたかった人なんだなと。自分がどん底にいる時に助けてくれた人だから、竜二のことをすごく大切に思っている。そういうことを監督から聞いて、役には入りやすかったです。母親としての強さ、女性としての強さは、どの時代も変わらないものだと思います。『RYUJI 竜二』に出てくる女性は少なく、女性にスポットが当たることも多くはない。だからこそ、まり子が強い女性としてそこにいられたらいいなと思っていました。
まり子は、竜二から「結婚できない」と告げられます。当時の価値観で考えると、いわゆる“幸せ”とされていた形とは違う道を歩む女性でもあります。今を生きる川栄さんから見て、まり子はどのような女性に映りましたか?
すごく芯のしっかりした女性だと思いました。竜二のことを第一に思い、「この人のために生きよう」と覚悟しているような人です。でも、子どもが生まれて、子どもと竜二、どちらの幸せもまり子が守らなければいけないような状況になっていく。最後のまり子の決断も、お互いを信頼しているからこそ選べたものに見えて、同じ女性として率直にすごいなと感じました。当時は、家庭に入ることが女性のひとつの幸せとされていた時代でもあったと思います。その中で、まり子はとても自立心のある女性に映りました。今の私がこの役を演じる意味としても、まり子の強さをちゃんと出したいと思っていたんです。自立していて、自分の軸を持っている女性として演じられたらいいなと。私自身も気が強い方なので(笑)、そういう意味でも、この役をやらせてもらえて良かったなと思いました。
まり子自身の過去は、劇中で細かく描かれているわけではありません。ただ、竜二が捕まった時に父親に頼る場面など、背景が垣間見える瞬間もありました。
まり子にとっては、無条件に受け止めてもらえるような愛情が足りていなかったのかなと思います。お父さんが保釈金を払ってくれる、ということではなく、本当の愛情みたいなものを知らなかったのかなと。だからこそ、竜二に対して愛を持ち、何があっても一緒にいられるというか、相手のことを思う気持ちが生まれたんじゃないかなと思います。


まり子は強い女性であることが伝わってきますが、言葉で気持ちをぶつけるというより、佇まいや背中で見せる場面が多かったように感じました。そうした表現に難しさはありませんでしたか?
その時その時の、竜二や子どもへの思いをきちんと持っていれば大丈夫だと思っていました。監督からも「こうしてほしい」と細かく言われることはなく、のびのびとやらせてもらったので、難しく感じることはなかったです。ただ、ひとつ意識するようになったことがありました。打ち合わせの時に、監督から「呼吸が気になる」と言われたんです。アイドルや歌手の方によくあるそうなのですが、セリフを言う前に一度吸ってしまうブレスが多いと。言われた後に自分の作品を見返してみたら、確かにセリフを発する前にブレスを入れていることが多かったんです。監督からは「最近観た作品では減っていたから、呼吸法を変えた?」とも聞かれたのですが、私はまったく意識したことがなくて。ものすごい気付きをいただきました。それからは、自分でも気になるようになってしまい。「今、呼吸してた、吸っちゃった」と思うようになりました(笑)。その後の作品でも意識するようになったので、本当にありがたかったです。
柳楽優弥さんとは過去にも共演されていますが、今回の作品だからこそのやり取りや、柳楽さんから感じたことはありましたか?
柳楽さんは口数がすごく多いわけではないのですが、フランクに接してくださいます。ただ、どこか緊張感のある空気を作ってくださる方で、お芝居のスイッチが入った瞬間にギアが上がる感じがすごいんです。お芝居もそうですが、座長としての在り方も無駄がないというか。役に向き合っている姿をいつも近くで見させてもらっているので、今回また夫婦という形で共演させてもらえたことはすごくありがたかったです。お芝居をするにあたっても、特に「ここをこうしよう」という話はありませんでした。多分、柳楽さん自身が、何が来ても大丈夫な佇まいでいてくださるのだと思います。だからこちらも何でもできるというか。すごく安心感がありました。
撮影現場はどのような雰囲気でしたか?
現場は“プロ集団”が揃っている感じでした(笑)。監督によると思いますが、二人のシーンだったら、それぞれの寄りを撮ったり、ツーショットを撮ったり、いくつもパターンを押さえることが多いんです。でも水田監督は「一回でいきます」ということが多くて。無駄なものを撮らない現場でした。お芝居の面でも、感情がこみ上げてくるシーンだと涙が欲しいとおっしゃる監督もいるかもしれないですが、水田監督は「別に泣かなくてもいい。こういう気持ちでいることが大事だ」と言ってくださる。そういうスタンスがとてもありがたかったです。
現場で変化していったシーンもありましたか?
竜二が部屋の中で暴れ、直(萩原利久)に手を出すシーンがあるんです。台本では、まり子にもビンタをしたり、髪を引っ張ったりする描写がありました。でも現場で、柳楽さんが「女性に手を上げたくない」と話されていて。監督も「そうしよう」と。その場で作っていく感じがありました。現場では、そんな風に移り変わっていくことに柔軟に対応していくというか、ちゃんとアンテナを張っていないと乗り遅れてしまう感覚はありました。
まり子の視点に心を寄せながら観る方も多いと思います。まり子を通して、どのような思いが伝わればいいなと思いますか?
一貫して思うのは、好きな人や子どもなど、大切な存在を守る気持ちですね。あとは、その人が幸せになるために何かをするというより、その人の決断を尊重する。そういう女性の強さを感じてもらえたら嬉しいです。

1983年に公開された『竜二』を、2026年にまた新たな形で届けること。その意味や意義を、川栄さんはどのように受け止めていましたか?
今の時代は、「男だから」、「女だから」という感覚はあまりないと思います。昔は、お母さんが家庭に入って、男性が働いて稼ぐという考え方も強かったと思いますが、今はそうではない。でも、それぞれに守るもの、曲げられない信念、人に対する愛がある。それは時代が変わっても変わらないものだと、この作品を観て感じました。だからこそ、今の時代に届ける意味があるんじゃないかと感じます。
今回の『RYUJI 竜二』を観て、川栄さんのお芝居に、これまでとはまた違うしなやかさのようなものを感じました。明るくはつらつとした役柄も多かったと思うのですが、最近、お芝居に向き合う中で変化を感じることはありますか?
20代は、お話をいただいた作品は全部やらせていただきたいと思っていました。様々な経験をさせていただく中で、自分の中でもやりたいことが明確になっていって。最近は、自分がやりたいと思う役を選ばせていただくことも増えました。だからこそ、20代の時とは違った役柄やお芝居を見ていただけるようになっているのかなと思います。私って、なぜかテンションが高い人だと思われているんです(笑)。テンションが高い役をやればやるほど「ぴったりだね」と言われることが多かったのですが、自分が観る作品としては、結構重たい作品が好きなんです。そういう役もやりがいがありますし、演じていて楽しい。役者って、自分のイメージと違うものを演じて、それもできるというのがすごいことだと思うんです。そういう意味では、どんどんイメージと違う役を演じさせていただきたいです。最近はお母さん役も増えてきましたし、年を重ねるごとに幅広い役をやらせてもらえるのは、すごくチャンスだなと思っています。
今年は、ご自身にとっても大きな一歩を踏み出された年だったと思います。今振り返って、どのように感じていますか?
私は決断するのがいつもすごく早いんです。悩まないですし、過去も振り返らないタイプなので、常に自分をレベルアップさせているというか、人生を楽しい方向に自分で導いている感覚に近くて。だから、年々人生が楽しくなっています。傍から見たら、大きい決断をしたと思われると思いますが、自分としては、生きている中のエピソードのひとつという感じなんです。

これまで目標をひとつずつ叶えながら、その時々で決断を重ねてこられたと思います。今の川栄さんが、次に見ているものは何ですか?
AKBを卒業した時に、朝ドラのヒロインになること、大河ドラマに出ること、映画で賞を獲ることを夢に、ずっと役者の活動をしてきたんです。映画で賞を獲ることだけがまだ叶っていなくて、今はそれを叶えるために頑張っているところが大きいです。夢が叶っていっても、自分のその時の感情や、その先を見据えて動くタイプなので、急いで次を考えたりはしなくて。例えば映画で賞を獲って、その先に夢がなかったらやめると思うんです。どうにでも動けるように、お金もちゃんと貯めています(笑)。いろいろなパターンを考えながら生きているので、「今、お金があるから使っちゃおう」とか、「今、仕事があるからいいや」というマインドにはならないんです。予想外のことがあっても、その時の状況で最善策を考えて動く。ずっとそう生きてきた気がします。

俳優 川栄李奈(RINA KAWAEI)
Instagram:@rina_kawaei.official

『RYUJI 竜二』
監督:水田伸生
原作:金子正次『竜二』
出演:柳楽優弥、川栄李奈、萩原利久、JUNON(BE:FIRST)、他
10月30日公開 ©︎2026「RYUJI」製作委員会
staff
Photographer : YURI INOUE
Hair & Makeup : KOBA(PUNCH)
Stylist : MARIE TAKEHISA
Edit & Text : AYAKO UENO(AKANE MAGAZINE)