水上恒司「すべてを無欲に、流れに身を任せていくことがいかに難しいか」WEBインタビュー

INTERVIEW

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水上恒司「すべてを無欲に、流れに身を任せていくことがいかに難しいか」WEBインタビュー

水上さんは『本当にあった話(の話)』で夛田(ただ)という人物を演じられています。今作は共感や分かりやすさに向かっていくというより、“分からなさ”や終始漂う不穏な空気に心を掴まれる作品だと感じていました。その中で夛田がどう存在するかが作品の鍵になっていたように思います。

まさに役へのアプローチがまた違ったので、面白かったですね。普段の映画やドラマの現場では、やっぱり観てくださるお客様の選択や共感に委ねられている部分もあると思うんです。それは産業であり、ビジネスでもあるので、仕方のないことだと思うのですが、その中では「人間ってこうだよな」という部分を、何でも好き勝手にやれるわけではない。自分の中でも「これはやるべきじゃないな」、「やってみたいけど、やるべきじゃないな」という抑制が、良くも悪くも働くことがあります。でも、この作品に関しては、やるべきことが良い意味で不透明だったので、いろいろことができそうだと感じました。武井(佑吏)監督にとっては初の商業映画ではありますが、世の中の商業映画の真反対に存在しているような作品でもある。だからこそ、できることはたくさんあると感じましたし、実際にいろんなことを試させていただいたように思います。

“不透明さ”は、時にありがたく感じるものなのですね。

あまりよくないことかもしれませんが、様々な作品に出させていただいたり、現場の話を耳にする中で、「こういう役、作品、規模感なら、こういうものが求められるのではないか?」と想像できるようになってしまうところもあるんです。そういう中で、この作品の自由度はとてもありがたかったんです。

最初にお話が来た時、武井監督とはどのようなお話をされたのでしょうか?

作品の質感や、監督が求めているもの、僕に求められているもの、僕が向かうべき方向性のようなものは、事前にお話しすることができました。先ほど別の取材で、黒木(華)さんがおっしゃっているのを聞いて「そうだった」と思い出したのですが、監督から、役それぞれの設定が全員分載っている資料をいただいたんです。それは制作の在り方として、とても正しいものだなと感じました。撮影の時間も限られている中、こちらもいい作品を作りたいと思って集まっていますから、そういったヒントを事前に得られたことは、とてもありがたかったです。

その資料から得たものも含め、夛田を演じる上で、彼らしさはどこにあると考えていましたか?一口に「こういう人物」と言い切れない人でもあると思いますが。

何なんでしょう……何かが欠落している人なのかなとは思いました。誰しもそうだと思いますが、夛田はその欠落したものを埋めようとすることに必死な人だったんじゃないかなと。人格が形成される頃なのか、作中には描かれていない何かしらの過去も抱えているのではないかなと考えていました。そんな面は、夛田という人物だけの特別なものではないのかもしれません。

夛田にとって、アリサ(山下美月)という女性の存在はとても大きいですよね。ある意味、彼の人生や価値観に強い影響を与えていった人なのかなと思いました。良くも悪くも人との縁によって自分が変わっていくことについて、どのように捉えていますか?

出会う人によって自分が変わっていくということは、もちろんあると思います。他者から何かを得ようとすること自体は、とても自然なことだと思うんです。ただ、その受け取り方は、夛田と自分では違うなと感じます。でも、そうして人間というものは構築されていくでしょうからね。本当に日々、いろいろな選択と決断と取捨選択をしていかないといけない。何かが少し違っていれば、自分も違う道に進んでいたかもしれない。そう考えることはあります。本当に紙一重なところで、人間誰しもが憧れるような場所に行く人もいれば、犯罪に手を染めてしまう人もいる。それくらい、思い込みというか、信じたいものの対象がないと生きていけないと思うんです。すべてを無欲に、流れに身を任せていくことがいかに難しいか。そういうことは感じます。

これまでのご自身の選択を振り返ることはありますか?「あの時こういう選択をしてよかった」と思うこともあれば、逆に「あえて選ばなかった道」もあるのではと。

折に触れて振り返ることはありますが、基本的にはなるようにしかならないなと思っています(笑)。そうは言っても、「今の芝居ダメだったな」とか、「あの人にこういうことを言ってしまったな」、「こうすればよかったのかな」と思ってしまうことも多いです。その時に戻れたら違う芝居をやってみようと思うこともあります。今はデジタルで映像を撮るので、何度もテイクを重ねられるじゃないですか。僕はフィルムの時代を知らないですが、その頃と比べると、重みがまったく違うと思うんです。だからこそ「もう一回いきたいです」と簡単に言ってしまいがちなのですが、極力言わないようにはしています。現場にはまだ、フィルムの時代を知っている先輩方がたくさんいらっしゃるんです。いろいろな言葉を聞く中で、デジタルが当たり前になっている時代に生まれた世代として、どう振る舞うべきなのか、どういう心得を持っていた方がいいのかが、少しずつ見えてくる気がしています。もちろん、利便性は享受していくべきです。でも、慣れてしまうがゆえの弊害のようなものは、極力ひとつずつ、ひとつでも多く潰していけたらいいなと思いますね。学べることは、どこにでも、いくらでも転がっているんですよ。

武井監督は、水上さんと比較的近い世代の方です。水上さんがこの世界に入られた頃は、先輩方が多い現場が中心だったと思いますが、最近は徐々に同世代や下の世代の制作陣も増えてきていますよね。

僕は、結構珍しいプロセスを踏んでいる人間だと思うんです。この世界に入ってきたこともそうですし、この世界での歩み方も含めて。もちろん、どんな時代にも、どんな世代にも、そういう人はいらっしゃると思いますが、自負している部分でもありますし、なかなか歩みたくても歩めないような道なのかなとは思っています。だからこそ、自分が見られているという意識はいつも持つようにしていて。そして自分も、これから出てくる才能に目を向けることは意識しています。それが結果的にこれからの世代を構築していく。その端っこの方にでもいられたらいいなと思います。共にものづくりをし、それぞれが中心となって作品を作ることができたら、すごく素敵だと思います。ただ、同じ世代というだけで何かが成立するわけではないはずで。だから、世代ということよりも、そういった方々といかに感性を刺激し合えるか。それが一番だと思います。

水上さんにとって、「こういう人はかっこいい」と感じる人物像や、目指したい男性像はありますか?

ちゃんと弱みを見せられることでしょうか。そういう人は、周りも放っておけないですし、素敵だなと思います。自分はそうはなれないなと思う部分もありますが(笑)。あとは、どんな立場になっても、挨拶を欠かさず、感謝の気持ちとごめんねの気持ちをちゃんと言える人。そういう人は素敵なんじゃないかなと思います。

今の水上さんにとって、お芝居に限らず、自分自身を表現していくことはどのようなことですか?

まだ若い世代だと思いますが、もっと若かった時は、かなり大それたことを考えていました。今はそこが、より現実的になってきたのではないかと思います。ある意味小さくまとまってきたのかもしれないですし、いろいろなものが見えてきたということなのかもしれません。見えていないからこそ簡単に口にできていた年齢から、いろいろなことを知ったうえで、それを体現していく段階に差し掛かっている真っ最中なのかなと。だからこそ、それをどこまで形にできるのか。難しさはたくさんあります。その時に考えていたことや口にしていたことを、今も考え続け、そこに到達できたら、それは素晴らしいことです。でも、それだけじゃないという可能性も、今は感じられていて。当時とはまた違う目線で、自分の将来を見ているんだと思います。



俳優 水上恒司(KOSHI MIZUKAMI)
Instagram:@koshi_mizukami_official


『本当にあった話(の話)』
監督:武井佑吏
原作:鴻池留衣『本当にあった話(の話)』(文藝春秋)
出演:⽔上恒司、⿊⽊ 華、⼭下美⽉/⼩池栄⼦/佐々⽊蔵之介、他
公開中


costume
jacket ¥90,200 , pants ¥48,400 all by ssstein / ENKEL、others stylist’s own


staff
Photographer : TAKAO IWASAWA(The VOICE MANAGEMENT)
Hair & Makeup : KOHEY
Stylist : SHOHEI FUJINAGA
Edit & Text : AYAKO UENO(AKANE MAGAZINE)

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