鈴鹿央士「いろいろな人からより多くのことを受け取ることができれば、まだまだ先があるのだなと思えました」WEBインタビュー
映画『藁にもすがる獣たち』で鈴鹿さんが演じられた佐藤寛治は、チャンネル登録者数2桁の弱小大学生YouTuber。アルバイト先のネットカフェで、1億円の入ったバッグを見つけたことにより、様々な“獣たち”に追われることになります。
寛治は、どこか突出した長所があるわけでも、勉強がすごくできるという描写があるわけでもない人物です。ただ、最初に脚本を読んだ時から、おばあちゃん(佐藤富子 / 風吹ジュン)想いなところを強く感じていて。寛治を演じる上で、その気持ちを一番大事にしようと思っていました。後日、衣装合わせの際に城定秀夫監督とお話ししていた時もおばあちゃんとの関係性の話になり、「寛治は優しくいましょう」と言っていただいて。彼の芯はこれでいいんだと改めて思えましたし、撮影中に何かがぐらついたとしても、立ち返るところはそこだと確信が持てました。あと、寛治は自分のYouTubeで、「どうもー」と挨拶するんです。彼のキャラクターを掴むにあたってまずはそのテンション感をどうするかを考えました。YouTuberだけど売れていない感じ、なおかつそれを寛治としてどう見せるか。僕自身はそんなにテンションが高いタイプではないのですが、人気なYouTuberの方の挨拶を見て、「こういうテンションなんだな」と参考にしたり、話す言葉の速さに注目して観ました。寛治も自分で動画を撮り始めた時はそうしていたと思いますし、売れている人を真似していると考えると、いい塩梅でモノにできていない感じが出るのかなと。ただ、寛治はそんな自分を「違うな」と思っていないと思うので、とにかくまっすぐさを意識しました。

YouTuberとしては、おばあちゃんの物忘れが激しくなっている様子を赤裸々に映すなど、危ういところもありましたよね。
おばあちゃんがお金を使い込んでしまい、お金がないという危機が迫る状況の中、バイトだと稼げる上限があるしYouTubeで一発当てて、再生回数でお金を稼ごうという思いがあったんだと思います。寛治の焦りの中で出た行動のひとつとして、「まぁ、いいか」と思ったんだろうなと。ただ、後ろ姿だったはずなので、一応の配慮はしているんです(笑)。それでも、あらゆることを動画のネタにしなければいけないくらい、追い込まれていたんだろうなと感じていました。
寛治も、本来はお金を盗むような人物ではなかったはずで。環境や追い込まれた状況によって、人が変わってしまう怖さも描かれていました。
欲によって人間の善悪の感覚がこんなにも揺らいでしまうのだと恐ろしさを感じました。そしてそれは表裏一体で、本当にすれすれのところにあるんだなと。Aさんから見たら善でも、Bさんから見たら悪かもしれない。そして、それを裁こうとするCさんの視点もある。そう考えると、どこに善悪があり、どこに正しさがあるんだろう?と。僕たちが日々生活する中でも、ちょっとしたところを間違えただけで、映画の中に出てくる獣のような人たちの方へ行ってしまうかもしれない。そういう怖さを改めて感じました。フィクションだからと切り離すのではなく、誰しもそうなってしまう可能性がある。そこは気を付けないといけないし、助け合わないといけないなと感じました。
助け合わないといけないというお考えは素敵ですね。鈴鹿さんご自身も、環境によって変わってしまった経験はありましたか?
もちろんあります。いいことも悪いことも。どういう人たちと一緒にいるかによって自分の姿勢も変わってきますし、物の見え方も変わるんです。「あ、これ違うぞ」と思ったら、環境を変えることもあります。自分に合わないと思ったらやめるとか……。まずは何でも一回チャレンジしてみるんです。芸術に触れるでも、新しい人と出会うでも。新しい作品に入るたびに初めましての人と出会いますし、その出会いから自分が何を感じるか、どういう話ができるのかを大事にしています。実際に話してみたり、作品に触れてみたりして、「違うな、自分に合っていないな」、「いい影響がないな」と思ったら、パッと切り替えることもあります。

本作は、城定監督らしい映像の面白さも詰まっていました。撮影中、あるいは完成した作品を観て、印象に残っていることはありますか?
とにかく撮影が早かったです。パッパッパッとテンポよく進んでいくのですが、本当に丁寧に画作りをされていて。城定監督をはじめ、スタッフのみなさんのスピードが本当に早かったんです。撮りながら頭の中で組み立てているのだろうなと驚きましたし、監督はカメラに収められていくシーンを見ながら、必要なものがはっきり見えているのだろうなと感じました。その分、僕たち俳優陣も、ミスはできないなと。だからといって、置きにいくお芝居をしても面白くないので、きちんとやらなきゃいけない。いい影響を与え合っている感じがありましたし、いい刺激を受ける現場でした。風吹さんとは、現場で「城定さんは本当に編集が素晴らしい監督だから、私たちは良い素材を渡せるようにしようね」という話をしたのが印象に残っています。今作の撮影中に「すごいな」と感じたのが、森(七菜 / し〜な役)さんとのシーンで。森さんのクランクインが、僕に銃を突きつけるシーンだったんです。その時に、お芝居の凄みを感じたんです。僕は、実は同世代の方との共演はあまりない方なんです。学園ものの作品でも、大人数でワイワイするシーンはそんなになくて。だから今回の森さんとの共演は、僕にとって良い影響をたくさんもらえた機会でした。僕ももっと頑張らないといけないなと感じます。

鈴鹿さんは、作品を重ねるたびに、いろいろな顔が見えてくる俳優だという印象があります。最近、表現する上で、自分の中で変化を感じることはありますか?
『藁にもすがる獣たち』の撮影の後に、初となる舞台『リア王』に出演したのですが、その時にガラッと変わった気がします。共演の方は、大竹しのぶさん、成田 凌さん、宮沢りえさん、勝村政信さん、山崎 一さんなど、本当に素晴らしい俳優の方ばかりで。稽古の時から、演出家のフィリップ(・ブリーン)はじめ、みなさんの熱量に圧倒されていて。公演が始まってからも、カーテンコールの幕が閉じた後、隣の隣にいた大竹さんが来て「明日はさ、こことここはああしようよ!」と言ってくださるんです。毎回アドバイスをくれて、楽屋に戻る道でも「あそこのセリフはああしよう」などと、本当にいろいろなことを教えてくださいました。自分の思考回路にはなかったものをたくさんいただき、かけがえのない経験になりました。自分の力や知見だけに頼って作っていくと、どうしても限界があるし、そこまでの人になってしまう。でも、いろいろな人たちからより多くのことを受け取ることができれば、まだまだ先があるのだなと思えました。その後の作品でも、「このシーンをもし一緒にやっていたら、こう言われるかもしれないな」と思い出すことがあります(笑)。そこでぐっと一段ギアが入ったり。あのメンバーの中に入れたからこその経験でしたし、いい時間でした。本当に経験できてよかったです。

俳優 鈴鹿央士(OUJI SUZUKA)
Instagram:@ouji.suzuka.official

『藁にもすがる獣たち』
監督:城定秀夫
原作:曽根圭介『藁にもすがる獣たち』(講談社文庫)
出演:鈴鹿央士、成宮寛貴、森 七菜、MEGUMI、前田旺志郎、二ノ宮隆太郎、青木マッチョ、岩松 了、小手伸也、風吹ジュン、他
公開中
©曽根圭介/講談社 ©2026「藁にもすがる獣たち」製作委員会
staff
Photographer : YURI INOUE
Hair & Makeup : AI MIYAMOTO
Stylist : YUTAKA ASAKURA
Edit & Text : AYAKO UENO(AKANE MAGAZINE)