鈴木 福「いいことも悪いことも、その役が来るためにあったのかもしれないと思わせてくれる瞬間がある」WEBインタビュー
鈴木 福さんは、10月15日より幕が上がるミュージカル『RENT』で、マークを演じられます。本作は1996年にブロードウェイで初演され、日本でも何度も上演されていますが、もともとどのような印象を持っていましたか?
日本初演でマークを演じられた山本耕史さんとは、以前から親しくさせていただいていて、僕が携わることになる前から『RENT』に対する思いを聞かせていただいていたんです。山本さんにとって、『RENT』は役者人生の中でも本当に大事で、自分の人生が変わるきっかけになった作品だと聞いていました。なのでオーディションのお話をいただいた時、なにか縁のようなものを感じて。受けるからには山本さんに、自分が演じるマークを見せたいという気持ちになり、すごく熱が入りました。すでに影響をたくさん受けていますし、自分にとっても特別な作品になっていく気がしています。
ご自身は、『RENT』のどんなところに惹かれていますか?
マークは映像作家志望で、ロジャー(木原瑠生とRIKU[THE RAMPAGE]のWキャスト)はミュージシャン。僕も芸能の世界で表現することを仕事にしている人間なので、夢のある場所に憧れている感覚は、彼らと近いものを持っていると感じます。『RENT』の中では“ボヘミアン”や“LOVE”という言葉が重要なワードとしてたびたび出てきますが、僕も表現者として生きていくと決めた中で、彼らが目指しているものと共鳴する部分があって。環境は違うけれど、抱えている思いや目指しているものには通じる部分があるんですよね。そこが、僕が『RENT』に惹かれる大きな理由なのかもしれません。
世の中に対して、自分たちの思いをぶつけて生きていく姿も印象的ですよね。
いろいろな思いを持ちながらも熱量を持って生きていく姿がすごくかっこいいんです。本心をありのままにすべて言って生きていける人って、少ないと思うんです。それでも、人によって言えることの幅は違うなと感じることがあって。僕自身、普段は表に出さないようにしていることや、蓋をしているようなこともありますが、そういうものも、この役を通して表現できるんじゃないかと感じています。出会ったことのない自分が出てきたり、どこか開放されるような感覚もきっとあるはずなので楽しみです。


マーク役が決まった後、山本さんとはコミュニケーションを取りましたか?
電話で「いい報告があるんです」と伝えたら、「なに?彼女でもできた?」と聞かれて(笑)。マーク役に決まったことをお伝えすると、すごく喜んでくださって。今は僕以上に楽しみにされている気がします。先日食事に連れて行ってくださった時も、「稽古はまだなの?」と聞かれました(笑)。僕自身、ここからたくさん山本さんに聞きたいことが出てきそうです。海外版の『RENT』しか観たことがなく、日本語で理解して自分が演じる側になると、受け取る感覚がまた違うと思うんです。山本さんは日本語でも英語(2024年の日米合作による全編英語上演)でも『RENT』を経験されており、作品への思いもすごく深い方なので、そんな方が近くにいるのが本当にありがたいです。もちろん僕なりの解釈もありますし、演じるのも僕ですが、長く『RENT』に向き合ってこられた方が近くにいるので、たくさん頼らせていただきたいです。
周囲の方からの反響も大きかったですか?
山本さんだけでなく、これまでミュージカルや演劇の現場でお世話になった方々が「ここまで来たんだね」、「楽しみにしているね」と連絡をくださって。歴史ある作品で、みんなが知っているからこそ、反響も大きかったです。3月まで『ZIP!』(日本テレビ系)のパーソナリティを務めていた際は、水卜麻美アナウンサーとご一緒していたのですが、夫の中村倫也さんも以前ロジャーを演じられているので(2012年公演)、「聞きたいことがあったら言ってね」と言っていただき嬉しかったです。
ご家族の反応はいかがでしたか?
すごくびっくりしていました。妹たちはすでに、僕の立つ舞台を観に行けると楽しみにしてくれているみたいで……実は家で『RENT』の曲を歌いすぎて、妹たちは僕がオーディションで歌った曲を半分くらい覚えていると思います(笑)。
(笑)。ご家族の中でも『RENT』が広がっているのですね。
年始に韓国で『RENT』を家族で観ようとしたのですが、年齢制限があって一番下の妹が観られなかったんです。それでも会場の近くで音漏れが聞こえてきて楽しんでいたんですよね。そこからYouTubeで韓国版やブロードウェイ版、映画版の映像を観るようになり、僕がいない時でも観ているらしくて。妹たちも様々な形で作品に触れていて、それもなんだか嬉しいです。いつか妹にアドバイスされるかもしれないですよね(笑)。

現時点で、マークをどのような人物だと捉えていますか?
今いる状況に満足しきれない気持ちがあって、やりたいことへ一生懸命向かっていきながらも、もどかしさを抱えている人なのかなと。ただ、それすらも楽しんでいるようなところもあって。マークは映像を撮っていく中で周りの影響を受けますし、自分も周囲と関わりながら、人を通して自分と向き合っていく。そこがマークにとって重要なポイントなのかなと感じています。
役を通して、ご自身を知っていくような感覚もありますか?
最近すごくあります。役を通して自分を見るというか、自分自身のことが分かるようになっていく、知っていくような感覚なんです。マークから影響を受ける部分もあるだろうし、僕がマークに影響する部分もあると思うので、これからもっと探っていきたいです。
作品の舞台は90年代初頭のニューヨークです。当時の空気や背景を、どのように受け止めていますか?
当時と今とでは、死の近さや大切な人を亡くすこと、貧困のあり方も違いますよね。同じ状況に立てるわけではないし、簡単に分かるわけでもない。ただ、今の自分の周りにも、これからの人生をどうしていくか、向き合っている仲間たちがいますし、僕自身もこれからどうなっていきたいかを考える時間があります。先の不安みたいなものは、昔も今も形を変えてあるのかなと。いい未来を見ればものすごくワクワクするけれど、「こうなる可能性もあるよね」と悪い方向も想像できる。その大きさや種類が違うだけで、そういう不安はどこか共通している気がします。
実際にニューヨークにも行かれたそうですね。
先日も行きましたし、昨年も行きました。イースト・ビレッジからマンハッタンの真ん中、ブロードウェイやタイムズスクエアの方へ歩いていく中で、当時の街も、きっといろいろなものがひしめき合っていたんだろうなと想像しました。かけらのようなものを拾ってきた感覚があるので、それをパズルを埋めるように、作品に活かしていきたいです。

改めて、『RENT』という作品の魅力はどんなところにあると思いますか?
まず音楽が本当に素敵です。多種多様なジャンルの楽曲がありながら、作品としてのまとまりもあるのがすごいと思っていて。それでいて、こんなにも世の中への不満や気持ちをむき出しにしている作品って、そんなに多くない気がするんです。世の中にはきれいな作品もたくさんありますが、『RENT』は言葉を選ばず現実を見せているところがある。今回、日本語訳の台本を読んで、英語で聞いている時はスッと入ってきた言葉も、日本語で受け取るとより強く響く言葉がありました。でも、そこに人間らしさがあるんですよね。むき出しなのに、素敵で美しい音楽とともに入ってくる。そのバランスも、この作品が愛されている理由のひとつなのかなと思います。
歌唱について、今感じている難しさや楽しさはありますか?
難しいことばかりです。『RENT』には、語りのような曲というか、喋っているセリフにメロディがついているような曲も多くて。言葉を立てなければいけないけれど、メロディはすごく複雑で、音楽もしっかり乗っている。セリフの部分、歌の部分、という切り替えではなく、言葉にすると少し変ですが「切り替えずに切り替える」ことが必要になってくると思います。でも、ステージで歌っていることを想像すると、ものすごくワクワクする曲ばかりなので、楽しみながら、しっかり準備して臨みたいです。
『RENT』は、日本でも長く上演され続けてきた作品です。作品そのもののファンも多い中で、この作品に出演することをどう受け止めていますか?
巡り合わせのようなものを感じています。その時々で社会情勢は変わりますし、何が脅威になるかも時代によって変化していくと思うんです。それでも『RENT』には、変わらない核のようなものがある。そこに本質的なつながりがある作品だからこそ、長く愛されていると感じます。誰しもがキャラクターの誰かに共感したり何か縁を感じたり、自分の周りで起こったことと重なる部分を見つけたりする。心のどこかに引っかかる作品だからこそ、いろいろな人に影響を与えて、心に残り続けていると思います。
同世代のご友人たちは、就職活動などでこれからの人生に向き合っている時期でもありますよね。
僕は僕で、自分をよく見せる仕事でもあるからか、就活をしている友達から「面接の時、どうしたらいいかな?」と聞かれることもあって。でも正直なところ、上っ面を完璧にして希望する会社に入れたとして、その環境で本当にいい仕事ができるか、自分に合った場所になるかは分からないよねという話になることが多いです。その場に合う自分であろうとする努力も必要だと思うのですが、嘘をついたり変に取り繕ったりするのではなく、そこに入りたいという心からの熱意を持っていけば、きっと縁につながるんじゃないかなと。僕が簡単に理解できるものではないと思いますが、なんとなく聞き流してもらってもいい。会話の中で相手の背中を少しでも押せるものになればいいな、くらいの気持ちで「僕はこう思う」と伝えています。僕も、この仕事を長くさせていただいている中で、ひとつひとつの仕事をつないでいく感覚が強くて。今回の仕事が次につながることもあれば、次のチャンスを潰してしまう可能性だってある。失敗はできないという中で、いろいろなチャンスを得たり、自分ができなかったものがすごく魅力的に見えたりする経験もしてきました。だから、大小は違っても、人生の分岐点に立つ感覚には近いものがあるのかもしれません。
鈴木さんがこれまで生きてきた中で得たものを集めて、マークに注ぎ込んでいくような作品になりそうですね。
最近特に、役との巡り合わせや、引き寄せられるようなことって本当にあるんだなと感じています。いいことも悪いことも、その役が来るためにあったのかもしれないと思わせてくれる瞬間があって。今まで生きてきた中で起こったこと、悲しかったこと、辛かったこと、楽しかったこと、嬉しかったことを、全部この作品に注ぎ込んでいきたいです。
そのためのパーツが、今少しずつ揃ってきているような感覚でしょうか。
そうですね。去年『RENT』が決まった時には持っていなかったものが、ふと手に入ってしまったりして。それが辛いことだったとしても、「あぁ、こういうことなんだな」と思う瞬間があるんです。運命と言うと大げさかもしれないですが、少し怖いくらいにパーツが手に入っていく感覚があって。誰のために演じるのか?をよく考えますが、自分のためでもあり、誰かのためにもなるのだろうなという手応えをすでに感じています。

俳優 鈴木 福(FUKU SUZUKI)
Instagram:@s_fuku_te

『RENT』
脚本・作詞・音楽/ジョナサン・ラーソン
演出/マイケル・グライフ
出演/鈴木 福、木原瑠生/RIKU(THE RAMPAGE)(Wキャスト)、Beverly/遥海(Wキャスト)、他
10月15日より日比谷シアタークリエにて上演、その他広島、福岡、愛知、大阪公演もあり
staff
Photographer : Emi
Hair & Makeup : SHOJIRO TSURUHARA
Stylist : HARUKI OKAMURA
Edit & Text : AYAKO UENO(AKANE MAGAZINE)