草木染めという、自然との対話と物語。ーMaito Design Worksの手しごとー
「自然から引き出した、ほんとうの色合い」
蔵前の草木染めスタジオ「Maito Design Works」は、素材からその色まで「自然のもの」にこだわったものづくりをしている。代表の小室真以人さんにお話を伺った。小室さんは、福岡県で草木染めを家業とする家で育ち、2008年にニットブランド「MAITO」をスタート。2012年には蔵前にアトリエショップをオープンした。

自然から色を引き出す、繊細な作業
小室さんが、東京で草木染めの工房を構えた経緯は。
小室さん「地元の福岡には工房があるんですが、僕自身が東京で活動していく中で、いつどんな染料が手に入るかわからないから、自分のいる場所には工房を持っていたいという気持ちがありました。植物は生きものだから、日にちが経つと色も変わってしまうので、できるだけ早く使ってあげたくて。
例えば、桜染めでピンク色に染めるには、花が咲く前の、小さい蕾がついた小枝がちょうどいいんです。桜の色素って、実は黄色・オレンジがほとんど。ピンクの色素は花を咲かせるための栄養素みたいなもので、花が咲く直前に増えて、花が咲くと減ってしまう。僕らは色素として使いますが、植物にとっては生きるための成分で、それをいただくのに枝を切っちゃうのはかわいそうじゃないですか。だから、雪折れや剪定のタイミングで出た枝を分けてもらうんです。そうなると、剪定のタイミングって直前まで分からないし、雨で延期になることもある。そういった時に備えて、いつでも染められるようにしておきたくて。」
二拠点だからこそのメリットもあるという。
小室さん「草木染めって、染める布の種類、植物の採取した時期、水質、温度……ほぼ全ての要素が色に表れちゃうんです。それが面白さでもあるんですが、染め物屋としては、色の再現性を求めることにも挑戦していかないと。そういう時に、「この色は福岡じゃないとできない」「これは東京の方がやりやすい」ということもあって、品質をコントロールする意味で二つの染め場を使い分けることもしています。」
草木染めは、あらゆる知を結ぶ
取材した日は、新しい藍染め液を発酵させている段階だった。スタッフの西岡さんが藍染めについて教えてくれた。
西岡さん「藍染め液は蒅(すくも)から作ります。タデ藍という植物の葉っぱを発酵させて、堆肥化させたものなんです。藍の色素は水に溶けず、分子同士が固まって”大きな粒子”になっているので、そのままでは繊維の中に入り込むことができません。そのため、発酵・還元によって水に溶ける形にして繊維の内部まで浸透させ、その後、酸化させて再び水に溶けない大きな粒子に戻すことで、繊維の中に閉じ込めて定着させるんです。」
蒅(すくも)にはこのプロセスに必要な菌が濃縮されているため、より安定した染色が可能となっている。それが日本の伝統的な藍染めの手法だという。
西岡さん「発酵には糖分が必要なので、”ふすま”という小麦の皮を栄養として入れてあげるんです。入れすぎてもダメなんですけどね。石灰を入れてpHを調整したり、成分が底に沈んでしまうので混ぜてあげたり……そうして藍染め液を作っています。一気にたくさん染めると、元気がなくなっちゃうので、様子を見ながら染めます。」

画像:「タデ藍」の葉(手前)と、それを発酵させ丸めた蒅(奥)。
現在、工房では10名ほどが働いている。そのバックグラウンドは実に様々だと、小室さんが教えてくれた。
小室さん「もちろん、草木染めや自然が好き、テキスタイルが好きという方もいます。一方で、西岡さんはもともと生物学専攻で。染色って化学だし、植物や発酵との意外な共通点があって。そういった入り口から入ってくる人もいます。それこそ服飾、美術の人もいれば、全然違う仕事をしていたけれど好きなことをやるんだと飛び込んできた人……入り口は本当に色々です。そう、草木染めって色んなアプローチから面白いと思える対象なんですよね。それが魅力でもあるなと思っています。」


画像(上):実際に染めに使用している藍染め液。藍の色素が還元された藍染め液は緑がかった色味。画像(下):藍染め液の発酵の様子。青い泡が浮いてきているのが、うまく発酵できているサイン。
草木染めが紡ぐ、文化の記憶
販売する商品の制作以外にも、自身のアート作品の制作やクライアントワークも行っている。インテリアや、パッケージデザインなど、領域は様々だ。
小室さん「最近だと仁和寺の桜を使ったプロダクトを販売して、その売り上げの一部を桜の保全に使ってもらうという取り組みをしました。あとは、文化保全の活動に携わることも。例えば歌舞伎の襷の縄は、本来は草木染めで染めていたけど、近年では化学染料で染めるようになってしまって。また昔ならではの方法で染めたいと言われて、染めたこともあります。」
その傍ら、染色に関する研究やアーカイブの制作にも取り組んでいるという。
小室さん「明治・大正の文献を読んでその手法を再現してみたり、この植物でこんな色が染まるっていうアーカイブを作ることがライフワークなんです。染料との出会いは一期一会、同じ植物でも採取する季節や年ごとに違ってくるので、限界はあるんですけど……自分なりにアーカイブに残して次の世代にバトンタッチできるように、貯めておきたいと思っています。日本独自の文化が発達した江戸時代、日本の染色技術は世界トップだったのに、その技術が失われつつあるのはもったい無いですから。日本って新しいものを受け入れることには柔軟だけど、一方で、昔からあるものは当たり前になりすぎて、あえて守っていこうという意識が薄い気もしていて。だからこそ、守っていくためのアクションをしていきたいですね。」

画像:様々な色素で染められた糸。染めた日付や条件が記載されたタグが付けられている。
プロダクトを作るときにこだわっていることについても伺った。
小室さん「植物を育てた人や植物の命をいただいているということをどうやったらきちんと伝わるのかなということ。また、こんな素敵なものがあるんだよっていうことを、どうやったら見てもらえるかということを、まず考えています。あとは、誠実に、嘘なく作るということです。染色の過程をお客さんにすべて見せることはできなくて、僕たちは仕上がった色でしか届けることができない。今は化学染料も色々あって、それを混ぜて草木染めだと言って売ることもできてしまう。でも、だからこそ、真面目に、誠実に作っている人が評価されてほしいという気持ちがありますし、自分もそこは守っていかなくてはならないと思っています。」
どういった方が草木染めのプロダクトを求めて、アトリエショップにやってくるのか。
小室さん「ショップに来てくれる方は、もちろん草木染めの商品が欲しくてという人がいますがそれは3分の1ほど。他にも、オーガニックコットンが好きな人、サステナブルに関心がある人、化学素材が肌に合わなくて天然素材を求める人。日本ならではのものを求めてくる海外の方もいますし、様々です。こうしていろんなアプローチから来てくださるのは、草木染めだからこそですね。」
工房では一般の方向けに草木染めのワークショップも行っている。ワークショップには草木染めを習得したいという人が訪れるという。
小室さん「僕は実家が草木染め工房で、文献にもすぐにアクセスできる環境がありました。でも、そうではない環境の人が、いざ草木染めを始めようとした時に、いろんな本に書いてある情報がバラバラなので難しいんじゃないかと思って。そういう人が家で自分で染められるようになる手伝いができたらなと。」

画像:工房で染められた服たち。
手仕事だからこそ宿る、物語と価値
大量のものが作られ、消費される現代で、小室さんが考える手仕事のものを作り続ける意味とは。
小室さん「自然って機械化するには複雑すぎることがあります。天然の色素や素材で作ったもの”揺らぎ”は機械では再現できないんですよね。それに、機械だと常に90点以上のものを作れるけど、手仕事ではもしかしたら100点以上のものができるかもしれないというロマンがありますね。あとは機械でたくさんものが作られていく中で、自然のものから手で作ったという事実というか。プロダクトに込められた物語がより大事にされるようになっていくじゃないかっていう感覚もあります。」
About Maito Design Works
「ヒトと自然にやさしいものつくり」を掲げ、天然素材とメイドインジャパンをコンセプトに草木染めの服や生活用品などを提案する、東京蔵前の草木染めファクトリーブランド。
MAITO/真糸 蔵前店
〒111-0051 東京都台東区蔵前4-14-12 1F

Text & Edit:NANA KIKUCHI(AKANE MAGAZINE)